21時22分。
新宿駅、4番ホーム。
僕は、自宅最寄りの駅まで帰る電車を待っている。
西口方面に、僕の視界は限定される。
駅近くの高層ビル群は、まだ灯りが灯っていて、その灯りが僕の恥ずかしい願いを思い起こさせる。
新宿ではなかったけど、残業続きの22階の窓から見る夜の街。
高いところから見た世界は、せいぜい半径5km程度だけど、僕の手に収まりそうなほど小さなものだった。
そこにきらめく灯を僕は支配したいと願った。地上に展開される、天球儀を、僕は自分のものにしたかった。
その高さから、その儚げな灯りから僕はそれを実現可能な夢だと思ってしまった。
三角関数をもっとしっかり学んでおけば良かった。今となってはそう思う。
記憶の混濁
23時
川崎の灯りは、遠くにコンビナートの煙突からあがる炎と駅近くの歓楽街。
コンビナートの灯りは美しくとも荒々しく、僕の好みにあっていて、歓楽街の灯りは、主張こそ激しいのだけど、儚げで、瞬間の美を僕に感じさせた。
25時荒々しく美しいコンビナートの灯りは疲れるので、儚げな灯りの元へ行く。
光じゃ無くて、その街が発していたのか光と気付く。
僕の目には死人のような表情で朝を迎えるエリートって呼ばれる人たちと、儚げな街で輝く女の子達の間に違いを見出だせなかった。
目の前に広がる、偽りの美しさに
灯りが無駄に灯らない街に。
僕は一抹の怖さと、美しさを感じる。
手にしたウィスキーのボトルは空いてしまった。
僕はもう酔いどれ詩人なのかな?