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幸福のヒント?

僕による僕が幸福になるための、ヒント集にするつもりだけど、だいたい愚痴、ときどき妄想、たまに詩っぽいの

As a man、As a humanbeing

She said ...

「おう、じゃ今度時間取れたら連絡するわ」

始業直前、中学時代の友達からの電話に対してそんな風に答えて電話を終えた。

目の前には、ニヤニヤした女子高生。人に見られながら電話するのは気分のいいものじゃないけど、夏の暑さに負けた。

 

夏の出勤時間は早い。職場に着くと、そこには眩しい日差しをそのまま反射するような、色っぽいと言うよりは、健康的と言うべき生足の女子高生がいた。僕がカナダ留学の経験があると知ってから、やたらハグしようとしてくる女子高生の頭を抑えながら、僕は自転車の鍵をかけた。若い女性特有?の化粧ではない「女の匂い」をプンプンさせていた。僕は汗が引いてから再度香水を振り掛けなければと思った。

彼女は「暇だったから」と言っていたが、その言葉の後ろに「家にいたくない」と言うのが見え隠れしてしまう。おそらく僕を待って30分ほども日陰になる階段で本を読んでいたのだろう。ホットパンツで隠れていない太腿の裏にクッキリと階段の跡が残っている。僕は複雑な想いで、彼女を促し、二人で階段を上り、夏の熱気にムッとするような職場へ入った。

エアコンのスイッチを入れる。古い業務用エアコンは最初大きな唸り声をあげてから、冷たい空気を部屋に送り込んで来てくれた。僕らは何も言わず、二人でエアコンの前でその冷たい風を浴びていた。

その時、僕のスマホが震え、画面には懐かしい名前が表示されていた。幼稚園から中学まで一緒だった友達の名前。

飲みへの誘いだった。いろいろ積もる話もあったが、始業前ということもあり、用件を話し、手短に切るつもりだったけど、それでもやはり懐かしさに僕の言葉は今ではあまり使わない、当時の言葉遣いに戻っていた。

窓の大きな職場では、エアコンの効きも悪く、部屋全体が冷えるまでに時間がかかる。2基あるエアコンの、もうひとつの前に移動し僕は電話を続けた。すると彼女も付いて来る。僕は手で振り払うような手振りをして見るものの、一向に効果はなく、やがてキャスターつきの椅子に座り、僕が移動するたびに椅子のまま移動する。ホントめんどくさい。そんなやり取りを何度か繰り返し、自分のプライバシーを夏の暑さに負けてあきらめてしまった。

電話が終わっても、ニヤニヤしている。

僕は少しムッとして

「何?何見てんだコラ?」

と当時の言葉遣いのまま彼女に問いかけた。

「それそれ!先生もそんな風にしゃべるんだって思って、なんか新鮮だったの!」

と、大笑いしながら彼女は言う。20年近いブランクは、僕から凄みを失わせたらしい。

「普段からあんまり大人っぽくないとは思ってたけど、普段は先生なんか女性的って言うか、かわいい感じじゃない?でもなんか今の話し方って「男の子」っぽかった」とケタケタしながら言う。

僕はどちらかと言うと、メタボガタイのいい方で、歩き方などは遺伝的なのか経験的になのかはわからないけど、柄が悪いと言われる。その評価もあってできるだけ言葉遣いは丁寧なものを心がけているのだけど、どうやらそれが独特の雰囲気をかもし出しているらしい。だから先生として仕事しているときは、なおさら丁寧に言葉を選んでいたつもりだけど、僕自身がきっと子供だからどこか子供っぽいところがあったのだと思う。

「他人の電話聞くのはマナー違反だよ?」

といつもどおりの言葉遣いで彼女を注意する。

「会話は聞いてないよ、先生のこと見てただけだもん。先生ってすごくかわいい笑顔するんだね」

おいおい・・・一回り以上年下の子に言われてドキっとした自分に突っ込む。

「今まで知ってる大人ってさ、なんかつまらなそうにしている人ばっかりだったから、私、大人になりたくなかった。けど、先生見てると大人もそんな悪いもんじゃないんだなぁって思えるの」

これは純粋に嬉しかった。

これは僕が目指していたものだったから。子供は大人を見て育つ。大人は子供に「○○しなさい」と頭ごなしに言うけれど、そう言う大人の言いなりになって、あなたのようにつまらなそうな大人にしかなれないなら言うこと聞きたくない、って僕は思って育ったから。僕の父も母も自分の趣味を持っていた。それをしているときに彼らはとても幸せそうだった。子供だった僕が嫉妬するほどに。でも、だからこそ、家の外で会う大人たちが窮屈そうに見えて、その人たちの言うことが僕には従うべき言葉には思えなかった。

僕は彼女の言葉に感動を覚えてしまっていた。

 

不覚。

僕の一瞬の隙を突いて、彼女は抱きついてきた。

「あなたが好き」

 

普段の女子高生っぽい高い声ではなく、落ち着いた声。

冗談にするには重過ぎる。

僕はまだ自分の香水をつけていない。

変化した二人称。

言い訳はとめどない。

だから、そのときの僕の正直な気持ちを書こう。

嬉しかった。

だから、精一杯の理性で抱きしめなかったけど、振り払うこともできなかった。

 

エアコンがまたうなり声を上げる。設定温度より気温があがったのだろうか?

それをきっかけに離れた。

おい、顔赤くするなよ。照れるじゃないか。

なんで泣いてるんだよ?

こら、また抱きつくんじゃない!

「やっと、やっと・・・拒否されなくなった・・・」

泣きながら言うなよ。

 

僕が悪いんだ。言い訳はしない。

僕は抱きしめた。

そして言った。

「ありがとう」

それ以上は言えなかったから飲んだ言葉は「ごめんね」。

きっと君は感じ取ったんだよね?

 

晴れが続いた夏らしい日。

思い出しては、君より好きな人に出会えたことに感謝と罪悪感を感じている。