物語
青々としていた木の葉は、涼しい風に吹かれて色づいていた。 風が吹く度に、カサカサと音を立てる。 見上げる空は、どんよりと雲に覆われていたけど、時々見える雲の切れ間からは、夏の名残を感じさせる青い空が見えていた。 もう10年以上も使っている僕の…
禍々しい雲だった。 窓から見える遠くの山に、黒々と蠢くような雲がかかっていた。 空想上の生き物のように、それはそう生きているような力を感じさせた。 何か意志を持っていそうな、そんな雲。 その下は遠目にも雨が降っているのがわかる。こちらへと向か…
えい! www.youtube.com 振り返ることもできず ただ、前だけを見ていた 背中に君の視線を期待しながら 別れの挨拶じゃない言葉を期待しながら でも、僕は足を進めなければならない 冗談に混ぜて 笑いに隠して 伝えてきたつもりだけど 君のグラスには届かない…
彼女に初めて出会ったのは、新たに着任の挨拶を兼ねた保護者面談の席だった。 真面目そうな印象を受けた。 志望校や現状の確認など一通りの質問を終えて、こちらから 「何かご質問はございますか?」と聞くと彼女が口を開いた。 「先生は結婚してるんですか…
吐く息が白くなり始めたころだった。 銜えタバコのまま自転車をこいで僕は家路を急いでいた。 見たいテレビがあるのだ。 時刻は23時を少し回ったころ、今ならまだ序盤だ。間に合う。 僕は漕ぐ足を強めた。ジリジリと燃えていたタバコはいつの間にか消え、吸…
「ねぇ先生の夢ってなに?」 そう、君は聞き返した。 「夢かぁ・・・そうだねぇ・・・」 西日が差しこむ眩しい席で僕は夢を語った。 「なんてね、いい歳こいたおっさんが、言うべきことじゃないのかもだけどさ、でも、きっと叶う叶わないも含めて、夢を見る…
チリチリと何かが焦げてゆくような音が聞こえる。 君を待つ時間。 嫌な想像。 見えないもどかしさ。 わからない怖さ。 心が焦げているのを感じる。 幼いころに影に見た怪物 実際には何もいないのに 子供の僕には確かにそこにいるのを感じられた あの感覚にに…
www.youtube.com えい! ねぇ知ってる? 月の光って、すごく明るいんだよ 海に沈む夕日とかって見たことある? 写真でもいいよ、ほら、光が波にただようなのあるじゃない? 月もね、あんな風に海に映ってゆらめくんだよ そりゃ太陽ほど明るくはないし、海の…
「たましいぎんこう?」 彼はロックグラスを呷って、ウィスキーを口に含んでいた。 しばらく、口の中で味を確かめたのちに喉を動かし飲み込む。 そんな彼の喉仏を私は愛おしく思えた。 「そう、魂銀行。」 焼ける喉からつぶやくように彼は言った。 「仕事し…
ボタンの掛け違いから 僕は生まれた 誤解を父に持ち、邪推を母として僕は生まれ育った 僕の成長は早い 失われた信頼はそのまま母の手で僕を大きく育てる疑念と言うミルクになり 僕の存在をどんどん大きくする 父の兄弟である疑念は僕を狡猾に育て 父の仲間た…